阿武隈の住人便り


渡辺五郎(昭和43年卒 三条工業3回生)

 福島県東部に位置する阿武隈山地。北は宮城県の県境から南の茨城県の北部と栃木県北東部まで連なり、およそ、南北130q、東西45qの広大な丘陵である。
 福島県は地域を大きく3つに分け、西から会津、阿武隈川が流れている中央部が中通り、そして太平洋側を浜通りと呼ぶ。私の住む旧船引町(田村市)はこの阿武隈山地のほぼ中央に位置して、海抜450mに市街地がある。夏は涼しくて一般住宅はエアコンの必要はないが冬季は常に寒い。これは所謂、表日本側の気候であり、新潟が雪の時は季節風が強くなり晴れの天気が続き、移動性高気圧に覆われる時は放射冷却現象で早朝は零下10度近くまで気温が下がることがある。
 雪も降る。この時は太平洋側に低気圧が通過する時だ。年に何回かあり10〜20pは降雪する。気温が低いのでこの降った雪がなかなか溶けない。まれに会津方面からの雪雲が来て降雪する時もある。
 阿武隈には1000mを越える山が3つある。北から日山(天王山)1057m、大滝根山1193m、八溝山1022mである。
 日山(天王山と呼ぶ地域もある)は富士山が見える北限の山。大滝根山は山頂に航空自衛隊のレーダー基地があり三角点は踏めない。八溝山は山岳部が平成14年に参加した第46回インターハイの会場の山域である。
 主として標高600〜900mの山が多く花崗岩の岩峰を持つ頂や牧草地の上部の丘が山頂だったりする。また多くの山には坂上田村麻呂の伝説があり蝦夷征伐の時の様子が語られている。
 私はこの里山が山頂まで続いているような阿武隈の山々が好きだ。特に晩秋のクヌギやナラの紅葉の時期から初冬の北風が吹く時にそれが舞う中を歩く時だ。また初冬のこの時期に見晴らしの良い山頂に立つと、南から那須の連山、安達太良山、吾妻連山、北は蔵王の山並みが雪で輝いているのを楽しめる。
 いわき市の鬼ヶ城山には常緑のアセビが見られ浪江町の手倉山にはモミの大木が群生している。阿武隈にはブナの林もある。近くの桧山は牧草地が広がるが途中からブナの林になる。前述の標高が一番高い大滝根山に石楠花が見られる。三角点は基地の中なので毎年6月に開かれる基地の祭りに行き隊員に言えば案内してくれる珍しい山である。いつか私が頂上で遠方から来た人に会い三角点の場所を訊ねられた。三角点のタッチにこだわっていたがそんな訳で残念がっていた。
 私の住む町はかつてタバコの耕作量が日本一と言われておりクヌギやナラの落ち葉を集めてそれを腐葉土にしてタバコの苗を育てていた。従って林の中がきれいで灌木や雑草が少なくカタクリの生育に適し群生地が生活の近くまであったが、タバコ離れで作量が減り、落ち葉を腐葉土にする林が減った為にカタクリが減り最近はロープで保護されている。
 山の幸。春はタラの芽、コシアブラ、ウド等の採取が楽しめる。もちろん穴場を知っている。タラの芽やコシアブラはたくさん取れると知人に分け、連日天ぷらを楽しめる。秋はアケビが簡単に取れる秘密の場所に行く。渓流釣りは数回やったが沢には山女や岩魚もいる。
 阿武隈山地はこのような所である。三条工業高校を卒業して社会人として働き始めて転勤でこの地に住むまでは全く関心が無く知らない場所だった。
 家庭を持ちこのようにして30年近く生活を続け、すっかり「阿武隈の住人」となった。


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